車窓からふと目にする、茶畑に立つ大きな扇風機。あれはいったい何のためだろうと、不思議に思ったことはありませんか。その正体は「防霜ファン」といい、春先の冷え込みによる霜から、おいしいお茶に欠かせない大切な新芽を守るためのものです。この記事では、防霜ファンがなぜ必要なのかという理由から、その仕組み、設置にかかる値段や費用までを分かりやすく解説します。茶畑の風景に隠された秘密を、一緒に見ていきましょう。
1. 茶畑にある大きな扇風機の正体は「防霜ファン」
新緑の季節、ドライブや旅行で一面に広がる茶畑を目にすると、心が洗われるようですね。そんな美しい茶畑の中に、ひときわ目立つ大きな扇風機のようなものが立っているのをご覧になったことはありませんか。「あれはいったい何かしら?」「何のためにあるのかしら?」と、ふと疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。
あの大きな扇風機の正体は、「防霜(ぼうそう)ファン」という、大切なお茶の木を霜(しも)から守るための機械なんです。わたしたちが涼むために使う扇風機とは少し役割が違い、おいしい新茶を育てるお茶農家さんにとって、なくてはならない頼もしい助っ人なのですよ。

高さが10メートル近くにもなるポールの先に大きなプロペラがついていて、まるで茶畑を見守る番人のようにも見えますね。この景色は、静岡県や鹿児島県、京都府の宇治といった、日本を代表するお茶の産地でよく見ることができます。
項目 | 内容 |
---|---|
正式名称 | 防霜ファン(ぼうそうファン) |
別名 | 防霜用送風機 |
主な設置場所 | 茶畑、梨やブドウなどの果樹園、桑畑など |
主な役割 | 霜による農作物の被害(霜害 そうがい)を防ぐこと |
この防霜ファンがあるおかげで、わたしたちは毎年おいしい新茶をいただくことができるのですね。では、なぜお茶の栽培に霜は大敵なのでしょうか。次の章でその理由を詳しく見ていきましょう。
2. なぜ茶畑に扇風機(防霜ファン)が必要なのかその理由
ドライブや旅行先で広大な茶畑を眺めていると、等間隔に立つ大きな扇風機が目に入ることがありますよね。「どうして畑に扇風機があるのかしら?」と、不思議に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。実はあの扇風機、夏の暑さをしのぐためではなく、お茶の木を春先の思わぬ冷え込みから守るという、とても大切な役割を担っているのです。
特に、一年で最も品質が良いとされる「一番茶」の季節には、この扇風機が大活躍します。農家の方々が大切に育てたお茶の芽を、ある天敵から守るために設置されているのですよ。
2.1 一番茶の新芽を天敵である霜から守るため
お茶の芽にとっての天敵、それは「霜(しも)」です。特に、春先に芽吹いたばかりの柔らかい新芽は、まるで生まれたての赤ちゃんのように繊細。この大切な新芽を霜の被害から守ることこそ、あの大きな扇風機の目的なのです。

冬の間にじっくりと養分を蓄えたお茶の木は、春になると一斉に芽吹きます。この最初に摘み取られる新芽が、香り高く、うまみ成分が豊富な「一番茶」となります。この時期の新芽は水分をたっぷりと含んでいて、とてもみずみずしいのですが、その分、急な冷え込みに弱いという一面も持っています。霜が降りて新芽が凍ってしまうと、組織が壊れてしまい、お茶の品質に大きな影響が出てしまうのです。
2.2 春先の「遅霜」が茶葉に与える被害とは
一年の中でも、特に注意が必要なのが「遅霜(おそじも)」です。これは、春になって気温が上がり、もうすっかり暖かくなったと安心した頃に、突然やってくる霜のこと。立春から数えて八十八夜(はちじゅうはちや)の頃、ちょうど一番茶の収穫時期と重なるため、お茶農家の方々にとっては非常に厄介な存在です。
油断した時期にやってくる遅霜は、芽吹いたばかりの柔らかい新芽に深刻なダメージを与えてしまいます。
2.2.1 品質の低下と収穫量の減少につながる
では、遅霜によって新芽が被害を受けると、具体的にどうなってしまうのでしょうか。その被害は、主に「品質」と「収穫量」の二つの面に現れます。
霜に当たった新芽は、水分が凍って細胞が壊れてしまうため、黒く変色して枯れたようになってしまいます。そうなると、お茶本来の美しい緑色や、豊かな香り、深い味わいが失われてしまいます。丹精込めて育てた新芽が、たった一夜の霜で台無しになってしまうこともあるのです。これは、その年のお茶の出来を左右する、とても深刻な問題です。
被害の具体的な内容を、下の表にまとめてみました。
被害の種類 | 具体的な内容 |
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品質の低下 | 新芽が黒っぽく変色し、お茶にした時の香りやうまみが損なわれてしまいます。せっかくの一番茶の価値が大きく下がってしまいます。 |
収穫量の減少 | 霜の被害を受けた新芽は摘み取ることができないため、収穫できるお茶の量が大幅に減ってしまいます。ひどい場合には、その年の収穫がほとんど見込めなくなることもあります。 |
このように、遅霜は美味しいお茶が私たちの手元に届かなくなるだけでなく、お茶農家の方々の暮らしにも直接的な打撃を与えてしまいます。だからこそ、茶畑の扇風機「防霜ファン」は、美味しいお茶作りに欠かせない、頼もしい守り神のような存在なのですね。
3. 茶畑の扇風機(防霜ファン)の役割と仕組み
ドライブなどで茶畑のそばを通ると目に入る、あの大きな扇風機。ただ風を送っているだけではない、とても賢い役割と仕組みがあるのですよ。ここでは、お茶の新芽を霜から守る「防霜ファン」が、どのように活躍しているのかを詳しく見ていきましょう。
3.1 上空の暖かい空気を送り込み空気を混ぜる
晴れた日の夜、地面の熱がどんどん空へ逃げていき、地表近くの温度が急に下がる「放射冷却」という現象が起こります。お風呂のお湯が、上は熱いのに下はぬるいことがあるように、空気も暖かいものは上に、冷たいものは下にたまる性質があるのです。
霜が降りそうな寒い夜、実は地上から数メートルの上空には、地面付近よりも少しだけ暖かい空気の層ができています。防霜ファンは、まさにこの性質を利用しているのです。
ファンの大きな羽で、上空にある暖かい空気を地面近くに送り込み、冷たい空気と優しくかき混ぜてあげるのが一番の役割。そうすることで、茶畑全体の温度が下がりすぎるのを防ぎ、新芽が凍ってしまうのを防いでくれるというわけです。まるで、お部屋の空気を循環させるサーキュレーターのような働きですね。
3.2 気温が下がる夜から早朝にかけて自動で稼働する
防霜ファンは、一日中ずっと回っているわけではありません。霜が降りやすい、春先の冷え込む夜から朝方にかけて、私たちの知らない間に静かに働いてくれています。
その秘密は、柱の部分に取り付けられた「温度センサー」にあります。このセンサーが常に茶畑の気温をチェックしていて、あらかじめ設定された温度(例えば3℃など)まで下がると、自動でスイッチが入る仕組みになっているのです。そして、夜が明けて気温が上がってくると、役目を終えたファンは自動で停止します。
この賢い仕組みのおかげで、農家の方が寒い夜にずっと見張っている必要がなく、必要な時だけ効率的に茶畑を守ることができます。まさに、お茶づくりの頼もしいパートナーなのですね。
茶畑の気温 | ファンの状態 |
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設定温度(例:3℃)を下回る | 自動で運転を開始します |
設定温度を上回る | 自動で運転を停止します |
4. 防霜ファンの設置にかかる値段や費用相場
茶畑にそびえ立つ大きな扇風機。新芽を守る大切な役割があることはわかりましたが、いったいどのくらいの費用がかかるものなのか、少し気になりますよね。実は、この防霜ファン、家庭用の扇風機とは比べものにならないほど高価な設備なのです。ここでは、設置にかかる値段の目安や、使い続けるための費用について、そっとお教えしますね。
4.1 本体価格と設置工事費の目安
防霜ファンの導入には、「本体そのものの価格」と、それを茶畑に設置するための「工事費」の2つが主にかかります。
まず本体価格ですが、これはメーカーや性能、羽根の大きさなどによって幅があります。一般的には、1台あたり150万円から300万円ほどが相場と言われています。性能の良いものになると、それ以上になることも。まるで高級な自動車が1台買えてしまうほどのお値段ですから、驚きですよね。
さらに、購入したファンを茶畑に立てるための工事も必要です。頑丈なコンクリートの土台を作り、長いポールを立て、電気を引き込む配線工事など、設置場所の状況によって作業は変わりますが、こちらも数十万円から100万円以上かかる場合があります。
つまり、茶畑にあの扇風機を1本立てるためには、合計で数百万円もの大きな投資が必要になるのですね。もちろん、お茶農家さんが導入する際には、国や自治体からの補助金制度を活用できる場合も多く、負担を軽くする工夫がされています。
項目 | 費用の目安 |
---|---|
本体価格 | 約150万円 ~ 300万円 / 1台 |
設置工事費 | 約50万円 ~ 150万円(設置場所の地形や条件による) |
合計 | 約200万円 ~ 450万円 |
4.2 電気代などのランニングコスト
防霜ファンは、設置して終わりではありません。実際に動かすためには、もちろん電気代がかかります。これを「ランニングコスト(維持費)」と呼びます。
大きな羽根を力強く回すため、防霜ファンはたくさんの電気を必要とします。一晩動かすだけで、数千円の電気代がかかることも珍しくありません。霜が降りそうな夜にだけ稼働させるとはいえ、春先の1シーズンを通して見ると、電気代だけで数万円から十数万円になることもあります。
また、安全に長く使い続けるためには、定期的な点検やメンテナンスも欠かせません。年に一度、専門の業者さんにモーターのオイル交換や部品のチェックをしてもらうなど、こちらも大切な維持費の一部です。
項目 | 費用の目安 |
---|---|
電気代 | 数万円 ~ 十数万円 / 1シーズン |
メンテナンス費用 | 数万円程度 / 年 |
これだけの費用をかけてでも、お茶農家さんたちは大切に育てた新芽を守り、私たちにおいしい新茶を届けようとしてくれているのですね。茶畑の扇風機を見かけたら、そんな農家さんたちの想いにも、心を寄せてみたくなります。
5. 茶畑の扇風機に関するよくある質問
ドライブや旅行先で茶畑の扇風機を見かけると、いろいろな疑問が浮かんできますよね。ここでは、そんな防霜ファンにまつわる素朴な疑問にお答えします。知っていると、次にお茶畑を見るのがもっと楽しくなるかもしれませんよ。
5.1 防霜ファンはいつ頃から使われているの?
茶畑の空にそびえ立つ防霜ファン、実は日本で生まれた発明品だということをご存知でしたか?その歴史は意外と新しく、昭和40年代(1960年代後半から1970年代前半)に、お茶の一大産地である静岡県で開発されたのが始まりだと言われています。
当時、遅霜の被害に頭を悩ませていたお茶農家さんたちの「大切に育てた新芽を守りたい」という強い想いが、この大きな扇風機の開発につながったのですね。今では全国の茶産地はもちろん、果樹園などでも見かける風景になりました。
5.2 どのくらいの範囲に効果があるの?
あの大きな扇風機1台で、いったいどれくらいの広さをカバーできるのか気になりますよね。機種や設置される場所の地形によっても変わりますが、一般的には1台でおよそ1ヘクタール(10,000平方メートル)の範囲に効果があるとされています。
1ヘクタールと言われても、なかなかなじみがないかもしれませんね。身近なもので例えると、サッカーの競技場がおよそ0.7ヘクタールなので、それよりも一回り広い範囲を1台で守っていることになります。そう考えると、とても力持ちに思えてきませんか?
5.3 扇風機(防霜ファン)がない茶畑もあるけど、どうしているの?
「うちの近所の茶畑には扇風機がないわ」という方もいらっしゃるかもしれませんね。防霜ファンはとても効果的ですが、設置には費用もかかります。そのため、ファンを設置していない茶畑では、昔ながらの知恵や別の方法で霜対策を行っているんですよ。
代表的な方法をいくつかご紹介しますね。
対策方法 | どのような対策か |
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散水氷結法(さんすいひょうけつほう) | 気温が下がりそうな夜に、スプリンクラーなどで茶葉に水をかけ続ける方法です。水が氷る時に出す熱(潜熱)を利用して、新芽が氷点下になるのを防ぎます。春先に茶畑がキラキラと氷のオブジェのようになる美しい光景が見られます。 |
燃焼法(ねんしょうほう) | 固形燃料や重油などを燃やして、その熱で茶畑の空気を直接温める方法です。昔から行われてきた方法ですが、火の管理に手間がかかることや、煙の問題から最近では少なくなってきています。 |
被覆法(ひふくほう) | 茶の木に「寒冷紗(かんれいしゃ)」と呼ばれる黒い布や不織布などを直接かぶせて、地面からの熱(放射熱)が逃げるのを防ぐ方法です。玉露やかぶせ茶の栽培でも使われる方法ですね。 |
どの方法も、お茶農家さんたちが大切なお茶の芽を霜から守るための、愛情と工夫の結晶なのですね。
5.4 春以外にも回っていることがあるのはなぜ?
霜が降りないはずの夏や秋に、防霜ファンが回っているのを見かけて「どうしてかしら?」と不思議に思ったことはありませんか?実は、防霜ファンは霜対策以外にも大切な役割を担っていることがあるんです。
ひとつは、機械がいつでもきちんと動くようにするためのメンテナンス運転です。いざという時に動かなかったら大変ですから、定期的に動かして点検しているのですね。また、夏のとても暑い日には、茶葉の表面温度が上がりすぎるのを防いだり、湿気を飛ばして病気の発生を抑えたりする目的で回すこともあるそうです。私たち人間と同じように、茶の木も快適な環境を整えてもらうことで、元気に育つことができるのですね。
6. まとめ
茶畑で見かける大きな扇風機は、おいしい一番茶に欠かせない大切な新芽を、春先の天敵である霜から守るための「防霜ファン」でした。気温がぐっと下がる夜から早朝にかけて自動で回りだし、上空にある暖かい空気を地面に吹き付けることで、茶葉が凍ってしまうのを防いでいます。何気なく目にしていたあの風景には、高品質なお茶を私たちに届けるための、お茶農家の方々の知恵と工夫が詰まっていたのですね。
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