春の訪れを告げる「春一番」。言葉はよく耳にしますが、いつ、どんな風のことなのか、意外と知らないことも多いのではないでしょうか。この記事では、春一番の意味や発表の条件、実は地域によって基準が違うことなどを、わかりやすく解説します。あわせて、春一番が吹いた後の気温の変化や、強風、花粉など暮らしの中で注意したいポイントもご紹介。季節の変わり目を心地よく過ごすためのヒントがきっと見つかりますよ。


1. 春一番とは 春の訪れを告げる強い南風
「春一番」と聞くと、なんだか心が弾むような、新しい季節の始まりを感じさせてくれる素敵な言葉ですよね。長く厳しい冬が終わり、ようやく春がやってくる。そんな春の訪れをいち早く知らせてくれるのが、この「春一番」と呼ばれる強い南風なのです。
具体的には、暦の上で春が始まる「立春」から、昼と夜の長さがほぼ同じになる「春分」までの間に、その年で初めて吹く暖かい南寄りの強い風のことを指します。この風が吹くと、凍てついていた空気がふわりと緩み、気温がぐっと上昇。まるで自然界全体が冬の眠りから目を覚ます合図のように、私たちの頬をなでていくのです。
春の便りとして嬉しい知らせではありますが、時には交通機関に影響が出たり、急な天候の変化をもたらしたりすることもあります。春一番の性質を少し知っておくだけで、もっと穏やかな気持ちで春の訪えを迎えられるかもしれませんね。
1.1 春一番の語源と由来
春の到来を告げる明るいイメージのある「春一番」ですが、その言葉が生まれた背景には、少し切ない物語が隠されています。
この言葉の由来にはいくつかの説がありますが、最も有力とされているのが、長崎県壱岐(いき)の漁師さんたちの間で使われ始めたというものです。江戸時代の終わり、安政6年(1859年)のこと。春先の海に出ていた漁船が、突然の強い南風にあおられて転覆し、53人もの尊い命が失われるという痛ましい海難事故がありました。それ以来、漁師さんたちは、この時期に吹く予測不能な強い風を「春一番」と呼び、互いに注意を促し、海の安全を祈るようになったといわれています。
もともとは、自然の厳しさに対する戒めの言葉だったのですね。この地方で使われていた言葉が、やがて新聞などのメディアで気象用語として取り上げられるようになり、全国へと広まっていきました。今ではすっかり春の風物詩として定着していますが、その背景を知ると、この風に対する思いも少し深まるのではないでしょうか。
2. 気象庁が定める春一番の定義と発表される条件

「春一番」という言葉を聞くと、なんだか心が弾むような、春の訪れを感じますよね。この「春一番」、実は気象庁が発表する際に、いくつかの目安となる条件があるのをご存知でしたか?
ただし、これは天気予報のように必ず発表されるものではなく、あくまで「春の訪れを告げる現象」としてのお知らせなんです。そのため、年によっては発表されないこともあるんですよ。ここでは、気象庁が春一番を発表する際の、主な4つの条件について、一つひとつ見ていきましょう。
2.1 条件1 時期は立春から春分の間
春一番が吹くのは、暦の上で春とされる「立春(りっしゅん)」から「春分(しゅんぶん)」までの間とされています。毎年だいたい2月4日から3月20日ごろまでの期間ですね。
厳しい冬の寒さが和らぎ、これから少しずつ暖かくなっていく…そんな季節の変わり目に吹くからこそ、「春を告げる風」として特別に感じられるのかもしれません。


2.2 条件2 日本海で低気圧が発達
春一番が吹く日には、特徴的な気圧配置が見られます。それは、日本の西側、特に日本海で低気圧が発達していることです。
冬の間は大陸の冷たい高気圧が優勢な「西高東低」の気圧配置が多いですが、春が近づくと日本海で低気圧が発達し始めます。この低気圧に向かって、南から暖かい空気が引き寄せられるように流れ込むことで、春一番の強い風が生まれるのです。まさに、季節が冬から春へと移り変わるサインといえるでしょう。
2.3 条件3 南寄りの強い風が吹く
春一番は、その風向きと強さにも特徴があります。冬の冷たい北風とは対照的に、南からの暖かい風(南寄りの風)が、ある程度の強さで吹くことが条件となります。
具体的には、風速が秒速8メートル以上というのが一つの目安です。秒速8メートルというと、木の枝全体が揺れたり、風に向かって歩きにくくなったりするくらいの強さ。お出かけの際には、帽子が飛ばされないように気をつけたいですね。
2.4 条件4 前日より気温が上がる
最後の条件は、気温の上昇です。南から暖かい風が吹き込むため、春一番が吹く日は前日よりも気温がぐっと上がります。
「今日はなんだか急に暖かいな」と感じる日、それはもしかしたら春一番が運んできた春の空気かもしれません。この暖かさが、春の訪れをより一層実感させてくれますね。
これらの条件をまとめると、以下のようになります。
条件 | 具体的な内容 |
---|---|
時期 | 立春(2月4日頃)から春分(3月20日頃)の間 |
気圧配置 | 日本海で低気圧が発達する |
風 | 南寄りの強い風(風速8m/s以上が目安)が吹く |
気温 | 前日より気温が上昇する |
3. 春一番はいつごろ観測される?
春の訪れを告げる春一番。毎年ニュースで耳にしますが、一体いつ頃吹くものなのでしょうか。春を心待ちにしながら、詳しく見ていきましょう。
3.1 2月から3月にかけて吹くことが多い
春一番が吹くのは、暦の上で春が始まる2月上旬の立春から、昼と夜の長さがほぼ同じになる3月下旬の春分の日までの間とされています。この期間に、その年で初めて吹く強い南風が「春一番」として発表されます。
毎年、気象庁から各地方の観測日が発表されますが、その年の気候によって時期は少しずつ異なります。ここ数年の関東、近畿、九州北部地方の観測日を見てみると、その様子がよくわかりますね。
年 | 関東地方 | 近畿地方 | 九州北部地方 |
---|---|---|---|
2024年 | 2月15日 | 2月15日 | 2月15日 |
2023年 | 3月1日 | 観測されず | 2月20日 |
2022年 | 3月5日 | 観測されず | 2月14日 |
2021年 | 2月21日 | 2月19日 | 2月20日 |
2020年 | 2月22日 | 2月22日 | 2月18日 |
より詳しい過去のデータは、気象庁のウェブサイトで確認できます。ご興味のある方は、ご覧になってみてはいかがでしょうか。
気象庁 | 東京管区気象台 季節現象
3.2 年によっては春一番が観測されないことも
「今年は春一番のニュースを聞かなかったな」と感じる年があるかもしれません。実は、春一番が観測されない「春一番なし」の年もあるのですよ。先ほどの表でも、近畿地方では観測されなかった年がありましたね。
これは、春一番と認定されるための条件がとてもはっきりしているからなのです。立春から春分の間に、日本海で低気圧が発達し、強い南風が吹いて気温が上がる、といった複数の条件がすべて揃わないと、気象庁は「春一番」とは発表しません。
春一番が吹かないと、なんだか春の訪れが遅いように感じて、少し寂しい気もします。でも、ご安心くださいね。たとえ春一番の便りがなくても、季節は着実に進み、暖かな春は必ずやってきます。梅や桜のつぼみがゆっくりと膨らむのを、楽しみに待つのもまた素敵な時間ですね。
4. 実は地域で違う春一番の基準
春の訪れを感じさせてくれる「春一番」ですが、実は気象庁が発表するのは全国すべての地域ではありません。現在、春一番の発表は関東、近畿、九州北部地方(山口県を含む)に限られています。それぞれの地域で、少しずつ基準が異なっているのですよ。ご自身の住む地域の基準はどのようになっているのか、一緒に見ていきましょう。
地域ごとの主な定義を、分かりやすく表にまとめてみました。
地域 | 定義のポイント |
---|---|
関東地方 | 時期:立春から春分の日まで 気圧配置:日本海で低気圧が発達する 風:東京において、南寄りの風が吹き、最大風速がおおむね8.0m/s以上になる 気温:前日より気温が高くなる |
近畿地方 | 時期:立春から春分の日まで 気圧配置:日本海で低気圧が発達する 風:南寄りの風が強く吹き、最大風速がおおむね8.0m/s以上になる 気温:前日より気温が高くなる |
九州北部地方 (山口県を含む) | 時期:立春から春分の日まで 気圧配置:日本海で低気圧が発達する 風:南寄りの風が吹き、最大風速が7.0m/s以上になる 気温:前日より気温が高くなる |
このように見比べてみると、基本的な条件は似ていますが、風の強さの基準などが少しずつ違うことがわかりますね。より詳しい定義については、気象庁のホームページでも確認できます。
4.1 関東地方における春一番の定義
関東地方では、立春から春分の日にかけて、日本海を進む低気圧に向かって南からの暖かい空気が流れ込むことで、強い南風が吹きます。このとき、東京の観測地点で最大風速が秒速8.0m以上になると、春一番の条件のひとつを満たします。風速8.0m/sというと、木の枝が大きく揺れたり、風に向かって歩きにくくなったりするほどの強さです。これに気温の上昇が伴うと、「関東地方で春一番が吹きました」と発表されるのですね。
4.2 近畿地方における春一番の定義
近畿地方も、関東地方とほぼ同じ条件です。立春から春分の日の間に、日本海で低気圧が発達し、南寄りの風が強まります。風速の基準も関東と同じく、おおむね秒速8.0m/s以上。前日よりも気温が上がることも大切な条件です。昔から「春一番」という言葉が使われてきた地域でもあり、春の風物詩として親しまれています。
4.3 九州北部地方における春一番の定義
九州北部地方の定義には、山口県も含まれます。基本的な条件は他の地域と同じですが、風速の基準が「秒速7.0m/s以上」と、関東や近畿に比べて少し緩やかになっているのが特徴です。これは、地域の気候特性などを考慮して決められているようです。わずかな違いですが、その土地に合わせた基準が設けられているのは興味深いですね。
4.3.1 その他の地域で春一番が発表されない理由
では、なぜ東北や北海道、東海、沖縄などの地域では春一番が発表されないのでしょうか。それは、春一番に当てはまるような気象現象がはっきりと現れない、または地域性が大きいためです。
例えば、北国では春分の頃でもまだ冬の気候が続いており、南風が吹いても「春の訪れ」という印象とは少し異なります。また、地域によっては春先に特徴的な風が吹くものの、気象庁が定める春一番の定義とは少し違う、というケースもあります。このように、春一番は日本全国どこでも同じように吹くわけではなく、特定の地域で見られる季節の便りというわけなのですね。
5. 春一番が吹いた後の影響と注意すること

春の訪れを告げる「春一番」。なんだか心が弾むような、素敵な響きですよね。あたたかな風に誘われて、お出かけしたくなる方も多いのではないでしょうか。けれど、春一番はただあたたかいだけではなく、私たちの暮らしにいくつかの影響を与えることもあります。ここでは、春一番が吹いた後に気をつけたいことや、事前にできる備えについて、一緒に見ていきましょう。
5.1 気温が上昇するが「寒の戻り」に注意
春一番が吹くと、南からのあたたかい空気が流れ込むため、ぐっと気温が上がります。「やっと春が来たわ」と、厚手のコートをしまいたくなるかもしれませんね。でも、少し待ってください。春一番の後には、「寒の戻り」といって、冬のような寒さがぶり返すことがよくあるのです。
これは、春一番をもたらした低気圧が通り過ぎると、今度は北から冷たい空気が流れ込んでくるために起こる現象です。せっかくの春気分が台無しにならないよう、天気予報をこまめにチェックして、重ね着などで上手に体温調節を心がけましょう。すぐにしまわずに、スカーフや薄手のセーターなど、調節しやすい服装を準備しておくと安心ですね。
5.2 強風による交通機関の乱れや海難事故
春一番は、その定義にもあるように「強い風」です。この強風によって、思わぬトラブルが起こることもあります。特に、お出かけの予定がある日は注意が必要です。
電車やバスなどの公共交通機関が遅れたり、運転を見合わせたりすることがあります。また、橋の上や高速道路では、風の影響で速度規制が行われることも。大切なご予定がある場合は、時間に余裕を持って家を出たり、事前に交通情報を確認したりするとよいでしょう。
また、海や川の近くは特に危険が増します。波が高くなって海難事故につながる恐れがあるため、春一番の予報が出ているときは、海岸に近づかないようにしてください。お家の周りでも、植木鉢や物干し竿など、風で飛ばされそうなものはありませんか?事前に室内へ移動させておくと、ご自身だけでなくご近所への配慮にもなり安心です。
場所 | 注意したいこと・備え |
---|---|
ご自宅の周り | 植木鉢やゴミ箱、物干し竿など、飛ばされやすいものを室内にしまったり、固定したりする。 |
お出かけの際 | 電車やバスの遅延を想定し、時間に余裕を持つ。帽子などが飛ばされないように気をつける。 |
海や川の近く | 波が高くなり危険なため、絶対に近づかない。釣りなども控える。 |
より詳しい気象情報や注意報については、気象庁のウェブサイトで確認することができます。
気象庁 公式ウェブサイト
5.3 花粉の大量飛散が始まる

春一番は、花粉症の方にとっては、つらい季節の本格的な始まりを告げる合図でもあります。春一番が吹くと、なぜ花粉の飛散量が増えるのでしょうか。
それには、主に2つの理由があります。ひとつは、気温の上昇によってスギやヒノキの雄花が開き、花粉が一気に放出されること。もうひとつは、強い南風が山林から都市部へと大量の花粉を運んでくることです。このため、春一番が観測された日やその翌日は、花粉の飛散量が急増する傾向にあります。
花粉症の症状をお持ちの方は、春一番のニュースを耳にしたら、早めの対策を始めましょう。外出時のマスクやメガネの着用はもちろん、帰宅時には玄関先で衣服についた花粉をよく払ったり、空気清浄機を活用したりするのもおすすめです。少しでも心地よく春を過ごすために、ご自身に合った対策を見つけてみてくださいね。
6. 春一番と似た言葉
春の訪れを告げる「春一番」。なんだか心が弾むような、素敵な響きがありますよね。実は、この季節の風を表す言葉はほかにもあるのをご存知でしょうか。ここでは、春一番と似た言葉や、対になるような季節の言葉をご紹介します。
6.1 春二番や春三番とは
春一番が吹いた後、また同じような条件で南寄りの強い風が吹くことがあります。これを「春二番(はるにばん)」「春三番(はるさんばん)」と呼ぶことがあります。
ただし、これらは気象庁が公式に発表している言葉ではありません。気象庁が定義を定めて発表するのは「春一番」だけで、春二番や春三番は、主にニュースなどメディアで使われることが多い、いわば俗称のようなものです。
春一番が吹いても、すぐに暖かさが安定するわけではなく、また冬のような寒さに戻る「寒の戻り」が起こることも少なくありません。そんな冬と春が行きつ戻りつする中で吹く、二度目、三度目の春の便りを、誰が呼んだか「春二番」「春三番」。季節の移ろいを肌で感じる、趣のある言葉ですね。
6.2 秋の「木枯らし一号」との違い
春の「春一番」と対になるような言葉として、秋に吹く「木枯らし一号(こがらしちごう)」があります。どちらも季節の変わり目を知らせる強い風ですが、その性質は正反対です。
具体的にどのような違いがあるのか、下の表で比べてみましょう。
項目 | 春一番 | 木枯らし一号 |
---|---|---|
季節 | 立春から春分の間(春の始まり) | 10月半ばから11月末の間(冬の始まり) |
風向き | 南寄り(暖かい風) | 北寄り(冷たい風) |
気圧配置 | 日本海で低気圧が発達 | 西高東低の冬型の気圧配置 |
気温の変化 | 気温が上昇する | 気温が低下する |
季節の便り | 暖かい春の訪れ | 本格的な冬の到来 |
このように、春一番が暖かな春の到来を告げる心躍る便りであるのに対し、木枯らし一号は、これから始まる寒い冬への心構えを促す便りといえるでしょう。
ちなみに、「木枯らし一号」の発表は、東京地方と近畿地方で行われていましたが、現代の多様な情報提供手段を鑑み、2020年の発表を最後に終了しています。長年親しまれてきた季節の知らせが一つなくなるのは少し寂しい気もしますが、言葉としてはこれからも私たちの暮らしの中に残っていくことでしょう。
7. まとめ
春一番は、立春から春分にかけて吹く、春の訪れを告げる強い南風のことです。気象庁が定める定義があり、関東や近畿など地域によって基準が異なるのは少し意外かもしれませんね。心躍る春の便りである一方、強風による影響や気温の急な変化、本格的な花粉の季節の始まりも意味します。春一番の知識を暮らしに役立て、変化に備えながら、穏やかな気持ちで暖かな季節を迎えましょう。
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